2016.02.12
α-リポ酸と低血糖について
α-リポ酸は、水溶性と脂溶性の2つの性質を併せ持つ抗酸化物質で、細胞内のミトコンドリアでエネルギーをつくるのに必要な成分の一つです。L-カルニチンやコエンザイムQ10と同じように、体内でつくられていることからビタミンではなく、ビタミン様物質とされています。
私たちが生きていくうえで、また、新しい命が成育するうえで必要とされるエネルギーは、食事からの糖質や脂質が体内で変換され、細胞内のミトコンドリアで酸素によって燃やされ、つくられています。その際、α-リポ酸は糖質の細胞内への取り込みや代謝を促進したり、ミトコンドリア内で補酵素として働いていたりします。因みに、L-カルニチンは脂質のミトコンドリアへの運搬を、また、コエンザイムQ10はミトコンドリア内のエネルギー産生の最終段階で電子の受け渡しを、それぞれ、担っています。
α-リポ酸は当社の製品ではARTサポートにL-カルニチンやコエンザイムQ10とともに配合していますが、最近、α-リポ酸の摂取によって低血糖を引き起こすことを心配されるお問い合わせがありました。そこで、α-リポ酸と低血糖について整理してみたいと思います。
・α-リポ酸と低血糖
国立健康・栄養研究所のサイトにαリポ酸の「ヒトにおける安全性」として、「α-リポ酸摂取で注目されるインスリン自己免疫症候群の発症」との記載があります。
それによりますと、α-リポ酸の摂取が原因と推定される有害事象として、インスリンの注射歴がないにもかかわらず、インスリンに対する自己抗体が出現し、低血糖発作を引き起こす症候群、インスリン自己免疫症候群(IAS)があることが知られているとのこと。
要するに、α-リポ酸の摂取には、インスリン自己免疫症候群(IAS)による低血糖を起こすリスクが伴うというものです。こう書くと、α-リポ酸を飲めば低血糖になるかもしれないと心配になるかもしれませんが、その頻度は、極々、低いものです。
まず、低血糖を引き起こすIASは「HLA-DR4型」遺伝子と強く関連しているとされています。簡単に言えば、ある特定の遺伝子型をもつ人に多く発症するというものなのですが、その型をもつ日本人は4〜8%くらいと言われています。8%と言われると「多い」という印象をもたてるかもしれませんが、この型をもっているからといって必ず、IASを発症するわけではありません。因みに、IASは日本人研究者によって1970年に初めて報告され、それ以来、300例程度なので、まれなことで確率的には低いわけです。
あらかじめ、この遺伝子型をもっているかどうかを調べるのは現実的ではありません。ただ、α-リポ酸の摂取によるIASの発症はα-リポ酸のSH基によるものとされていますが、SH基はアミノ酸のシステインやグリシンにもあって、それらは、たとえば、ブロッコリ、ニンニク、タマネギ、豚肉などの食材に含まれています。そのため、「HLA-DR4型」をもっている人はこれらの野菜を食べてもIASによる低血糖を引き起こす可能性が高いと考えられますので、そのことが目安になるかもしれません。つまり、それらの野菜を問題なく食べているのであれば、α-リポ酸を摂取しても問題ないと考えれよいかもしれないということです。あくまで、1つの目安に過ぎませんが。
もちろん、どうしても心配であれば摂取しないことに越したことはありませんが、α-リポ酸の摂取による低血糖はとても確率的に低いものです。α-リポ酸の有用性を考え、摂取される場合、このようなリスクがあることは知っておいていただきたいと思います。ただ、もしも、低血糖を疑われるような症状が出たとしても摂取を中止することでなくなるはずです。
・国立健康・栄養研究所「α-リポ酸摂取で注目されるインスリン自己免疫症候群の発症」
・厚生労働省「α-リポ酸に関するQ&A」
細川