アドバイザリードクターに聞く 開発秘話インタビュー

女性不妊や男性不妊を専門とするドクターのアドバイスのもとに企画開発しています。

すこやかな新しい命を育み、紡ぐために知っておくべきこと

妊娠前と妊娠中の母親の栄養状態が、赤ちゃんの胎内の発育状態だけでなく、生まれてからの心身の健康、さらには、成人後の体質まで決めることをご存知でしょうか?

ダイエットなどで栄養不足のまま妊娠したり、食生活の乱れなどで妊娠中に十分な栄養を摂っていなかったりすると、胎児の胎内での発育に影響を及ぼすだけでなく、遺伝子の働きを調節するメカニズムが変化して、子が生活習慣病にかかりやすくなる体質になることが、これまでの研究でわかってきました。

これを「成人病(生活習慣病)胎児期発症起源説」といいます。

つまり、母親となる女性の食生活が子どもの一生の体質を決めてしまうのです。

これから妊娠・出産を目指す女性にとっては、まさにいま食生活に気をつけることで、それを防ぐことができます。

健康な赤ちゃんを妊娠、出産するために、ぜひ知っておいて欲しいこと、いや、知っておくべきことを皆さんに伝えたいと強く思い、産婦人科医であり、この分野の第一人者でいらっしゃる、早稲田大学総合研究機構研究院教授の福岡秀興先生にお話を伺いました。

妊娠前の栄養状態が赤ちゃんの発育に及ぼす影響とは?

早稲田大学総合研究機構研究院教授
福岡秀興先生

細川)福岡先生は、妊娠を望む女性のやせ傾向に警鐘を鳴らしていらっしゃいますが、その理由を教えてください。

福岡先生)現在の日本では、妊娠する可能性のある年齢の女性の4~5人に1人がやせています。食生活の乱れで栄養が偏ったり、ダイエットで食事を 抜く人も少なくありません。そのため、必要な栄養が十分に摂れておらず、妊娠のための体づくりができていなかったり、妊娠しても少ない栄養で赤ちゃんが発育していくという事態になっているのです。

細川)やせた状態で妊娠すると、どういう問題が起こるのでしょうか?

福岡先生)まず、妊婦さんが栄養不足になると、赤ちゃんがおなかの中で十分に成長できなくて、小さく生まれてきます。生まれたときの体重が2500グ ラム未満の赤ちゃんを「低出生体重児」といいますが、日本ではその割合が1980年には5.2%、20年後の2000年には8.6%、2006年には9.6%と増加して、いまでは10人に1人が低出生体重児です。また、母体が高年齢だと出生体重が小さくなる傾向がありますので、近年の晩婚化、晩産化もこれに影響している可能性があります。

細川)母体への影響は?

福岡先生)やせた状態での妊娠は、早産や切迫早産を引き起こしやすいことがわかっています。また、低出生体重児と正常体重児では、低出生体重児のほうが帝王切開の確率が2倍高くなっています。

細川)赤ちゃんとお母さん、両方にとってリスクが高まる、ということですね。

福岡先生)それだけではありません。「生活習慣病(成人病)胎児期発症起源説」といって、母体の栄養不足によって、おなかの赤ちゃんが生活習慣病の素因を持って生まれるリスクがあることがわかってきました。 この仕組みは、栄養不足の状態が受精時に近ければ近いほど、世代を超えて受け継がれる可能性があります。

細川)妊娠前から必要な栄養をちゃんと摂る食生活をしていないと、短期的・長期的にさまざまなリスクを抱えることになるのですね。

「生活習慣病胎児期発症説」とは?

細川)お母さんのお腹の中にいるときに、胎児に生活習慣病の素因が形成されるというのはどういうことでしょうか?

福岡先生)糖尿病や高血圧症などは、生活習慣が招く病として「生活習慣病」といわれていますが、遺伝子に原因があって発症するのは30%ほどであることがわかってきました。残りの70%の原因は、胎児期の栄養不足によるものではないかといわれはじめています。 この「生活習慣病(成人病)胎児期発症起源説」は、英国・サウザンプトン大学医学部教授のデイヴィッド・バーカー教授が1980年代に提唱したものです。出生体重と生まれた子どもの疾病リスクの関係について詳細な調査が行われた結果、「小さく生まれた赤ちゃんは、大人になって心筋梗塞や心臓病のリスクが高い」ことがわかったのです。

細川) 「小さく産んで大きく育てる」というのは誤りなのですか?

福岡先生)ええ、正しくはない考えです。低出生体重児は、虚血性心疾患、高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病を発症するリスクが高いのです。出生体重の低下は、胎児期、つまり、子宮内の低栄養環境で発育したことで起こるのです。

細川)「低栄養なのに生活習慣病?」と不思議な気もしますが・・・。

福岡先生)妊娠中に低栄養状態だと、胎児は「少ない栄養でも生きていける」体になって発育します。また、血液の老廃物を濾過する腎臓の糸球体という組織の数を調べたところ、2600gで生まれた赤ちゃんは、3200gで生まれた赤ちゃんより約30%も少なかったのです。腎臓糸球体が少ないと腎機能障害が起こりやすく、高血圧症になりやすいと考えられます。この腎臓糸球体の数は胎児期に決まり、出生後は増えません。このように、低栄養で胎児が発育すると、さまざまな変化が起こります。

細川)おなかの中にいるときに「低栄養でも生きていける」という体質ができてしまうのですね。その体質で生まれてくると・・・。

福岡先生)生まれた後も、発育した子宮内と同じような栄養状態が続けば問題ないのですが、栄養豊富な現代では、普通に食事をしていても、その体には必要以上の栄養を摂ることとなり、肥満につながっていきます。現在、高血圧症や糖尿病を発症する子どもが増えているのも、そんな背景があるといわれています。

細川)同じような食生活や生活環境でも、太りやすい人と太りにくい人がいたり、やせていても生活習慣病になる人もいます。それが、生まれる前の体質だったと考えれば、うなずけます。

遺伝子の発現にも影響する妊娠前、妊娠中の栄養素

細川)妊娠前の食生活が、子どもの一生の体質に影響を及ぼすのは、どのようなメカニズムなのでしょうか?

福岡先生)妊婦さんが低栄養であれば、たとえば、赤ちゃんのエネルギー代謝は、「低栄養状態でも生きていける」ようにプログラミングされます。DNAの配列(遺伝情報)はそのままであっても、遺伝子の働きを調節する仕組みの変化が、母体の低栄養によって起こるのです。この遺伝子の働きを調節する仕組みを「エピジェネティックス」といい、現在、大いに注目されています。

細川)遺伝子の働きを調節する仕組みの度合いが変わることで、胎児の体質が決定されるのですね。

福岡先生)このエピジェネティックスは、受精した時点に近く生じた変化であればあるほど、変化しにくくなり、その変化は世代を超えて続き、時には3代続くといわれています。

細川)体質がお孫さん、ひ孫さんまで引き継がれるのですか・・・。

福岡先生)身体ができあがってからは、低栄養などの環境の変化により生ずるエピジェネティクスの変化は、栄養状態が改善されれば元に戻る、すなわち、環境の変化に応じて変化します。しかし、胎児期の低栄養により生じたエピジェネティックスの変化は、変化しにくいのです。

細川)このエピジェネティックスの変化に、ビタミンやミネラルがかかわっているそうですが・・・。

福岡先生)それは、エピジェネティクスの修飾メカニズムのひとつに、葉酸をはじめとするビタミンB群やアミノ酸などの栄養素が深く関わっている「メチル化」という現象があるからです。そのため、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12 、さらには、ある種のアミノ酸が不足したり、過剰になったりすると、遺伝子発現の度合いが変化するのです。

細川)どれかひとつの栄養素ではなく、ビタミン・ミネラルを含む、さまざまな栄養素が、新しい命を育むためには必須だということですね。中でも葉酸については、妊娠前・妊娠中の摂取が特に推奨されていますね。

福岡先生)葉酸が不足すると、脊椎二分症や無脳症などの神経管がうまく形成されない先天異常が発症するリスクが高くなるために、厚生労働省も妊娠前から葉酸のサプリメント摂取を推奨しています。更に、葉酸の不足はそれだけに留まらず、子どもの健全な生育において多岐にわたる影響を及ぼします。

細川)葉酸不足が、将来にわたって深刻な事態を引き起こす可能性があると。

福岡先生)はい。そして、葉酸は不足してはいけませんが、逆に過剰になってもいけません。妊娠中期に葉酸を過剰に摂取すると、お子さんにぜんそくなどのアレルギーが発症しやすくなるという論文がいくつか出ています。摂り過ぎるのも問題なのです。厚労省が推奨しているように、全妊娠期間を通じて1日に葉酸サプリメント400μgを摂ることがすすめられています。

すこやかな新しい命を育み、紡ぐために知っておくべきこと

細川)お子さんを望むカップルが気をつけるべきことはどのようなことでしょうか?

福岡先生)妊娠前、妊娠中はやせないようにしてください。BMI(*)を目安に、自分の適正体重を知っておくといいでしょう。

細川)そのためにも食生活が重要になりますね。

福岡先生)基本はバランスのとれた1日3食の食事です。ご飯やパン、麺などの主食、野菜やきのこ、いも、海藻などの副菜、肉や魚、卵、大豆などの 主菜、乳製品、果物などをバランスよくとるといいですね。胎児の細胞分裂にかかわる葉酸は、食事だけでは不足しがちなので、食事に加えサプリメントを利用して下さい。

細川)つまり、ビタミン・ミネラルを含む5大栄養素を取り入れた、毎日の当たり前の食生活が、とても大切だということですね。

福岡先生)その通りです。妊娠前に栄養環境をととのえることは、まず母親になる自分の健康を保つことであり、受精の瞬間から始まる正しい遺伝子の 発現、つまり”命”を育み、そして、紡ぐために、とても重要です。積極的に妊娠を望む方は、妊娠に気づく前から取り組んでいただきたいと思います。それはさまざまなリスクを回避することにもつながります。ぜひ、食生活の見直しをしてみてください。

細川)次世代のためにも、社会的にもっと注目されてもいい情報ですね。

福岡先生)こうしたことは本来、社会全体で取り組むべきですが、残念ながら日本はこの分野で遅れているため、母親になる皆さんが正しい知識を身に つけて、子どもに伝えていくことが大切になります。お子さんが生まれたら、食育にもぜひ気を配ってください。それが世代を超えて、すこやかな命を紡いでいくことにつながります。産婦人科医として、一人の人間として、次世代の子どもたちに健康に育ってほしいというのが、私の願いです。

細川)本日は大変貴重なお話しをいただきましてありがとうございました。

(*)BMI(=Body Mass Index)とは?

BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割って算出。BMIが20以下はやせ、20~25は適正、25以上は肥満。「22」のときに最も病気にかかりにくくなることから、BMIが22となる体重を標準体重としている。

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